記事投稿日: 2025年1月5日(日)
最終更新日: 2025年1月6日(月)
KADOKAWAより出版された背筋『近畿地方のある場所について』(以下、本書籍)を読み終えたので感想をまとめておきます。
本書籍の情報は下記リンクから公式サイトをご覧ください。
KADOKAWAオフィシャルサイト:背筋『近畿地方のある場所について』本書籍は元々カクヨム(小説投稿サイト)で公開されていたホラー小説が書籍化されたものです。
下記がカクヨムのリンクです。
カクヨム:背筋『近畿地方のある場所について』本書籍は、様々な雑誌の記事やインタビュー内容、インターネット上の情報、主人公の体験などを通して、近畿地方のある場所で起こる不可思議な事件を追っていく作品となっています。
最初から最後まで作品としての完成度がとても高いので、 ホラーが好きか苦手かに関わらず全ての方におすすめです。
本記事には本書籍に関するネタバレがあるためご注意ください。
本書籍はジワジワ怖くなっていくタイプの作品で、 そのホラーの雰囲気が小説という文字媒体であることも相まって、 とても良い雰囲気を作っています。 もちろん直接的に怖くなるシーンも複数ありますが、 「そこまで怖くないはずの物事が積もり積もって大きな恐怖になってしまう」というような感覚が本書籍にはあります。
表面上の強烈な怖さというよりは、心の深いところからジワジワくる怖さを感じるような作品であり、 ホラーが苦手な方でも作品として楽しめるのではないかと勝手に思っています。 おすすめです。
本書籍は恐怖を与えてくれるホラー作品ではありますが、 作品内で登場する数々の短編を繋ぎ合わせていくと近畿地方のある場所で起きた不可解な事件の真実が解き明かされるような構成にもなっています。 ホラーを味わいつつ謎解きも体験できる一石二鳥な作品であるとも言えます。
本書籍はライターである主人公の話の連作と、雑誌の記事やインタビュー内容、インターネット上の情報などの短編が集まって構成されています。 それぞれの短編が近畿地方のある場所で起きた数々の怪事件にまつわる話になっていて、 それらの話が繋がり合って最終的に一番根本にある真実を浮かび上がらせていく流れとなります。
一つ一つの短編がそれぞれ単体でしっかりおもしろい作品となっているので(元々カクヨムで一つの話として公開されていたものであるため)、 最初から最後までずっと楽しく読み進めることができます。 また、短編ごとに区切られるので隙間時間に読みやすいという長所もあるかと思います。
主人公がライターということもあって、 本書籍全体を通して、小説というよりは雑誌の記事やレポートのような体裁で文章が書かれています。 そのため、文章に回りくどい言い回しや読者の想像に任せるような表現などもなく、必要な情報が必要な時に必要なだけ与えられます。
文章がシンプルで説明も単刀直入なので、誰にとっても読みやすくて内容に集中しやすいところも本書籍の長所かと思います。
本書籍の20ページの9行目を引用します。
当時彼は大学2年生で、ふた回り近く年の離れた私と盛り上がれたことをとてもうれしく感じたのを憶えています。
この一文において、文脈として「うれしく感じた」のは「私」です。 つまり主語は「私」になるはずなのですが、そう考えるとこの一文は不自然で、正しくは「ふた回り近く離れた彼と盛り上がれたことをとてもうれしく感じた」となるはずです。
おそらく誤植なのかとは思いますが、本書籍を通して文章はとても丁寧で、 この箇所以外には不自然な文が見つからないので、 何かしら意味があるのかもしれないとも思います。
本書籍はカクヨムでも投稿されていたので「小説」であるということが分かります。 つまりフィクションの作品であり、ホラーの怖さを作品として楽しむことができます。
しかし、本書籍では最初に著者である背筋さんが本書籍を書いていることが明かされたり(背筋さんが作品内に登場している)、 本書籍を作品と読んでいいのか背筋さんが疑問を抱いていることが述べられたりします。 また、最後には本書籍は日本中で広く読んでもらう目的があって書かれたことも分かります。
以上のことからカクヨムで公開されているからといって本書籍が小説であるとは限らないということが分かります。 さらにはもちろん名言はされませんが、本書籍はフィクションではなく、 読者に何かしらの影響を与えるかもしれないことが示唆されています。
そのように、本書籍はフィクション内にとどまらず、私たちの現実世界にも干渉するメタ的な作品であるとも考えられます。
本記事ではKADOKAWAより出版された背筋『近畿地方のある場所について』について感想をまとめました。 普段はあまりホラー作品を読まないのですが、 本書籍はとても完成度が高くておもしろく読めたので良かったです。 皆さまもぜひ読んでみてください。おすすめです。 それでは、また。
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