はじめに

河出書房新社から出版された高橋源一郎の『デビュー作を書くための超「小説」教室 増補版』(以下、本書籍)を読みました。 趣味で小説を書いていて新人賞が気になっていたのと、高橋源一郎さんが好きなのもあって読んでみようと思いました。 簡単にですが感想を書いておきます。

下記リンクが公式サイトです。

河出書房新社 - デビュー作を書くための超「小説」教室 増補版

本書籍は2015年に刊行された同タイトルの書籍の「増補版」とのことで、たとえば生成AI登場以降の小説について言及されています。 それ以外にも「おわりに」の部分や第4章が加筆修正されているようです。

感想

生成AI

生成AIについてですが、本書籍ではすでに人間よりもAIが優れている部分があるとした上で、 それでも新しい世界(新しい発想の作品?)は人間にしか生み出せないのではないかと書かれています。 また、将棋の例において、AIの評価では棋士のある一手は「間違った手」と判断されたが、 その後の手で評価値が上がって、その棋士の読みがAIを上回ったとされたと書かれています。

私の考えとしても、生成AIが人間の能力を超えたとしても、 結局はAIは道具であって作品を作るのが人間である以上、 あくまで小説を生み出すのは人間なのではないかと思っています。 ただし、性能の面においては、現在の生成AIの成長具合を見ると「AIは〇〇はできるけど〇〇はできない」という話はすぐに変化していってしまうため、 生成AIが人間には書けない小説を生み出す可能性も大いにあるのかなとも思っています。

また、将棋の話においては(例で出されているだけではありますが)、AI自体はあくまで人間が与えた命令に従って評価をしているだけであって、 その点だけを見てAIと棋士の読みのどちらが優れているかは比較できないかと思います。 AIが出した評価値(勝率)は正しく機能していて、その上で棋士が勝つ側の選択をしたというだけになるという認識です (とはいえ、私はAIについて素人なのでこの認識もただそう思っているだけに過ぎません)。

現状、生成AIは便利な道具であるため、私もうまく活用していきたいと思っています。

新人賞

本書籍は小説教室とタイトルに入っていますが、小説の書き方の技術を教えてくれる本ではありません(心構えは教えてくれます)。 筆者の選考委員としての経験にもとづいて、新人賞や選考委員、新人賞における選考とは何かを教えてくれています。

新人賞はたくさんあって、主にジャンルで分かれているのかと思っていましたが、どうやら違うようです。 そもそも各賞において違いはないと書かれています。 新人賞は選考委員の作家たちが、作家の仲間に加わることができる新人を選ぶ機会の場であり(新人作家の技量や可能性において)、 様々な出版社などが実施していて個性や傾向は存在しますが、大きな違いはなさそうです。

既存の作品と同じような作品を書いても仕方がないので、 そもそも各賞の個性やジャンルの傾向に反した作品を投稿したほうが良いとも書かれていて、 それはたしかにそうだなと思いました。 どちらにせよ、まだ世界に存在していない作品を生み出さないと受賞はできないだろうと私も思います。

選考委員

新人賞の選考委員という方々が実際に何を考えて選考しているのかが本書籍で何となく分かりました。 その作品の何が優れているか、賞を受けるに値にしているか、そもそもこれは文学や小説かなどに加えて、 作品の完成度と作家の可能性も見られているとのこと。 小説は基本的にすべて自由で、自由だからこそ小説というのもあるかもしれませんが、 つまり「これが小説である」と説明ができない中で、しっかり根拠を持って作品に優劣をつけるのは大変な作業かなと素人ながら思います。

投稿された作品に拙い部分があっても、その作家が何を書きたかったかを拾い上げて、 その可能性の大きさを認めて受賞させるということもあるという話がおもしろかったです。 このあたりは企業の新卒採用の面接と似たようなものかとも思いました。 そもそも選考において「この人と一緒に作家としてやっていけそうか」というような考えもあるようで、 まさに面接だなと思います。

選評

第4章では2000年以降の高橋源一郎の全選評が掲載されています。 最終選考に残った作品のうち、受賞した作品だけでなく落選した作品も選評があってとてもおもしろいです。 また、「受賞作品なし」もいくつかあって、受賞なしの決断の重さも感じられて良かったです。

あとは作品として面白くても、何か物足りない部分があったり、もう一歩足りない部分があったりなどして落選することも多いらしく、 そういう作品と文句なしで受賞が決まる作品の違いは結局何なんだろうと思ったりしました。 結末が弱かったり、話の納得感がなかったり、既存作品と似通っていたり、いろいろ理由はあるようですが、 さらにもっと細かい部分(たとえがありきたりとか)が積もり積もって作品の完成度を下げてしまうこともあるようで難しいところです。

私は意味が分からないハチャメチャな作品が好きなのですが、 新人賞においても(というか小説においても)ハチャメチャであること自体は良いも悪いもなくて、 結局は読者がそのハチャメチャを納得できるかどうかが重要、というような話があってとてもためになりました。 たとえば、ある一文が(その一文が何であっても)その作品において意味を持っているならもちろん良いけど、 何も意味もなく書かれているだけならそれはダメだよねという話です(言われてみれば当然ですね)。

選評がたくさん掲載されていて、読むだけで小説についていろいろ知れた気分になるので、とてもおすすめです。

おわりに

今回は高橋源一郎の『デビュー作を書くための超「小説」教室 増補版』を読んで感想を書きました。 小説について、小説の新人賞についてとても勉強になる良い本でした。 高橋源一郎さんの文章はとても丁寧で優しいので読んでいて心地良いです。 考え方も懐が深く、そして本当に小説が好きなんだなと改めて感じました。 新人賞に投稿したいかどうかに関係なく、小説が好きな方におすすめの一冊です。 それでは、また。